本記事の情報は参考目的です。制度は変更される場合があります。最新情報は各提供元の公式サイトでご確認ください。
公共交通で足りる国
結論から書くと、シンガポールで車を持つ日本人移住者は多くありません。公共交通が十分に使えることと、車の所有コストが日本の感覚から外れた水準にあることの両方が理由です。
| 手段 | 費用 | 備考 |
|---|---|---|
| MRT・LRT | カードでS$1.28〜2.57 | 現金運賃は存在せず、カードかタッチ決済のみ |
| バス(基本サービス) | カードでS$1.28〜2.57、現金でS$2.10〜3.20 | MRTと同じ距離制運賃表を共有する |
| 急行バス | カードでS$2.28〜3.57 | 基本サービスより高い |
| 月額定期券(大人) | S$122 | 基本のバス・MRTが乗り放題。急行・プレミアムバスは対象外 |
| タクシー | 初乗りS$4.40〜5.20+400mごとS$0.26〜 | ピーク25%増、深夜50%増、空港はS$6.00〜8.00の加算 |
| 配車アプリ(Grab等) | 乗車前に確定 | 雨天や混雑時は動的価格で跳ねる |
| 車の所有 | 月S$2,300〜(量産セダンの試算) | COEが車両価格とは別にかかる |
運賃は2025年12月27日の改定後の水準です。
運賃は移動全体の距離だけで決まる
日本との最大の違いは、乗り継いでも初乗りが再課金されない点です。バスとMRTは同じ距離制の運賃表を共有していて、1回の移動として扱われるかぎり、路線をいくつまたいでも運賃は総距離だけで決まります。
同一駅構内での路線の乗り換えには制限がありません。改札を出て別の駅や別の乗り物へ移る場合に、次の条件がつきます。
- ✓バスが絡む乗り継ぎは45分以内、改札を出て鉄道から鉄道へ移る場合は15分以内
- ✓1回の移動は最初と最後の乗車の間が最大2時間、乗り継ぎは最大5回まで
- ✓同じ番号のバスに乗り直した場合は乗り継ぎとして扱われない
平日(祝日を除く)の朝7時45分より前に鉄道の改札を通ると、鉄道区間の運賃から最大S$0.50が引かれます。引かれるのはS$0.50か鉄道区間の運賃のいずれか低いほうで、バス区間は対象外です。
通勤費には上限がある
なぜ車がこれほど高いのか
シンガポールで車を買うには、車両とは別にCOE(Certificate of Entitlement、車両所有権証明書)が必要です。10年間その車を所有・使用する権利で、入札で価格が決まります。1990年に導入された車両割当制度の中核をなす仕組みです。
背景にあるのは国土の制約です。運輸省によれば道路は国土面積の12%を占めており、工業用地の約13%、住宅用地の約15%に匹敵します。これ以上道路を増やせないため、乗用車と二輪車の車両数増加率は2018年2月から年0%に据え置かれ、2028年1月31日まで続きます。台数を固定して価格で配分するという設計です。
COEのカテゴリと直近の落札価格
| カテゴリ | 対象 | 2026年8月第1回の落札価格 |
|---|---|---|
| A | 排気量1,600cc以下かつ最高出力97kW以下(完全EVは110kW以下) | S$123,890 |
| B | Aの条件をどちらか一方でも超える車 | S$129,910 |
| C | 貨物車・バス | S$91,545 |
| D | 二輪車 | S$10,503 |
| E | オープン(二輪を除く全車種に使える枠) | S$131,000 |
カテゴリAは排気量と出力の二重条件です。排気量が小さくても出力が高ければ自動的にカテゴリBになります。入札は月2回、通常は第1・第3月曜日に始まり3営業日行われて水曜16時に締め切られます。
2026年のカテゴリAは1月第1回のS$102,009から7月第1回のS$129,000まで上昇し、これは2010年以降の最高値です。ただしその後は7月第2回S$126,000、8月第1回S$123,890と2回続けて下がっています。
車両価格の積み上げ
日本の「車両本体価格+諸費用」とは構造が違います。輸入到着原価であるOMV(Open Market Value)がS$25,000の乗用車をカテゴリA枠で登録する場合、次が上乗せされます。
| 項目 | 金額 | 計算 |
|---|---|---|
| OMV(輸入到着原価) | S$25,000 | シンガポール税関が査定 |
| 物品税 | S$5,000 | OMVの20% |
| GST | S$2,700 | (OMV+物品税)の9% |
| ARF(追加登録料) | S$27,000 | OMVに対する累進課税 |
| 登録料 | S$350 | |
| COE | S$123,890 | 2026年8月第1回の落札価格 |
| 税とCOEの合計 | S$158,940 | これに車両原価とディーラー利益が乗る |
ARFはOMVに対する累進で、最初のS$20,000に100%、S$20,001から40,000に140%、S$40,001から60,000に190%、S$60,001から80,000に250%、S$80,000超に320%が課されます。上の試算にはVES(排出ガス制度)による加算・還付を含めていません。2026年に登録するガソリン車では数千ドル単位の加算がつくことがあります。
10年で価値がゼロになる
日本の中古車の感覚が通用しない部分です。COEリベート(期限前に手放した場合の払い戻し)は「支払った額×残存月数÷120」で計算されるため、10年の満了時点では払い戻しがゼロになります。ARFの一部が戻るPARFも「抹消登録時に車齢10年以下」が要件なので、10年を超えて乗り続けた車には出ません。
しかも2026年2月にPARFが大幅に縮小されました。5年以内の抹消でARFの75%だった還付率は30%に、9年から10年では50%から5%に下がり、上限もS$60,000からS$30,000へ半減しています。2026年2月第2回入札で取得したCOE以降に登録される車が対象です。これから新車を買う人にとっては、従来より残存価値がはるかに小さくなったことを意味します。
10年経過後は再入札せず、PQP(直近3か月の落札価格の移動平均)を払って更新する選択肢もあります。10年更新はPQPの全額、5年更新は半額ですが、乗用車の5年更新は1回限りで、その5年が切れたら抹消登録するしかありません。加えて車齢10年を超えると道路税に10%から50%の割増がつきます。古い車を長く乗るほど不利になる設計です。
維持費
道路税は排気量ベースの累進で、6か月ごとに課されます。1,598ccで年約S$742、1,998ccで年約S$1,210、2,995ccで年約S$2,379です。日本の自動車税(2,000ccで年39,500円)と比べると4倍近い水準になります。EVには排気量がないため、これとは別に6か月あたりS$350の定額が上乗せされます。
このほか保険、駐車場、ガソリン、ERP、整備が加わります。コンドミニアムでは1台分の駐車場が賃料に含まれることが多いものの、2台目は有料です。
ERP(電子道路課金)
時間帯で課金される仕組みです。日本の高速道路が距離で課金するのに対し、ERPは一般道のゲートを特定の時間帯に通過するだけで課金されます。30分単位で料金が変わり、同じ道でも通る時刻で金額が違います。日曜と祝日は課金されません。オーチャード地区は2020年4月以降ゼロ料金が続いていますが、再開の方針が示されています。
車載器はERP 2.0の衛星測位方式へ移行中で、2027年1月1日から全車に義務づけられます。距離課金が技術的には可能になりますが、LTAは当面導入する予定はないとしています。
車を持つかどうかの判断
量産セダンを10年保有して抹消登録する前提で費用を積み上げると、取得費の均等償却が月S$1,500前後、道路税が1,600cc級で月約S$62、これに保険・駐車場・ガソリン・ERP・整備を足して月S$2,300から2,800程度が現実的な下限になります。大型車や輸入車では月S$4,000を超えます。
これに対して、月S$122の定期券と必要なときのGrabを合わせても月S$500から600程度です。年間の差額はおよそS$20,000で、インターナショナルスクール1人分の学費に近い規模になります。子どもの送迎や郊外での生活など、車でなければ成立しない事情があるかどうかで判断することになります。
タクシーは減っている
交通費を含めた月々の総額は生活費の総額で扱っています。