本記事の情報は参考目的です。制度は変更される場合があります。最新情報は各提供元の公式サイトでご確認ください。
外国人には補助が乗らない
シンガポールの医療は水準が高く、公立病院の料金表を見ると日本より安く見える項目もあります。ところが外国人がその金額を払うわけではありません。公立病院の料金表そのものは同じで、違うのは補助が乗るかどうかです。
2007年10月以降、永住権保持者を除く外国人への病院補助は廃止されました。同じ診察を受けても、市民には補助が乗り、外国人には乗りません。さらに補助対象の患者はGSTを政府と病院が吸収しますが、非居住者の料金には9%のGSTが含まれます。二重に差がつく構造です。
公立の一次医療機関であるポリクリニックの一般診察料が分かりやすい例です。
| 区分 | 診察料 |
|---|---|
| シンガポール市民(子ども・高齢者) | S$8.50 |
| シンガポール市民 | S$18.50 |
| 永住権保持者(PR) | S$37.50 |
| 非居住者(EP保有者など) | S$85.35 |
いずれもGST込み、SingHealth系ポリクリニックの2026年8月時点の掲載額です。外国人は市民の約4.6倍を払うことになります。民間のクリニックより公立のほうが安いという日本の感覚は、外国人には当てはまりません。
救急だけは例外
B2・C病棟が安いのは市民の話
公立病院の病棟にはA・B1・B2・Cの区分があり、C病棟がもっとも安いと紹介されます。ただしB2・Cの安さは補助を前提とした金額です。補助率は世帯1人あたり月収による資力調査制で、市民は最大80%、PRは最大50%。外国人にはこの区分自体が意味を持ちません。国立大学病院は補助対象患者の定義を「シンガポール市民と永住権保持者のみ」と明記しています。
実際の請求額で見ると差がはっきりします。保健省は処置別・病院別の請求額の実績を公開しています。
| 区分 | 虫垂切除 | 帝王切開(合併症なし) |
|---|---|---|
| 公立・補助あり(B2病棟) | S$2,832 | S$2,582 |
| 公立・補助なし(B1病棟) | S$7,638 | S$8,490 |
| 公立・補助なし(A病棟) | S$8,831 | S$9,839 |
| 私立病院 | S$23,576 | S$15,805 |
いずれも請求額の中央値です。虫垂切除は2023年1年間の実績、帝王切開は保健省の掲載値によります。外国人にとっての出発点は補助なしの列で、そこから私立を選ぶとさらに上がります。帝王切開を病院別に見ると、公立KKHの補助なしA病棟がS$9,814、私立グレンイーグルスの個室がS$21,556と2倍以上の開きがあります。
公立の専門外来でも同じ差が出ます。国立神経科学研究所の初診料は、補助対象の市民がS$36.00からS$84.00、補助対象のPRがS$90.00に対し、非居住者はS$253.50(シニアコンサルタント、2025年8月18日施行)です。
民間保険は義務ではないが、前提になる
EP保有者に医療保険の加入義務はありません。MOMは、EP保有者の雇用にあたって医療保険の提供は要件ではないと明記しています。加入が義務づけられているのはWork PermitとS Passの保有者についてで、その場合は雇用主が年間最低S$60,000の補償を用意します。
義務がないことと、なくてよいことは別です。補助なしの請求額を見れば、保険なしで受けるのが現実的でないことは分かります。ここは制度の話ではなく金額の話として判断することになります。
市民が入る制度との比較
シンガポール市民とPRには、MediShield Lifeという公的な基礎医療保険があります。外国人はこの受け皿を持てません。CPF(中央積立基金)の拠出対象が市民とPRに限られるため、医療費の積立口座であるMediSaveも持てません。
市民が払うMediShield Lifeの年間保険料(補助前)は、21歳から30歳でS$295、41歳から50歳でS$637、61歳から65歳でS$1,131です。外国人が民間保険で用意する補償は、これに相当する部分を自費でまかなうものだと考えると位置づけが分かります。
既往症の扱いが決定的に違う
保険料の見積もり方
外国人向けの国際医療保険には公開料率表がなく、個別見積もりが原則です。保険料は年齢・補償範囲・引受条件で大きく変わります。市民向けのMediShield Lifeですら20代と60代前半で約4倍動くことを踏まえると、年齢を無視した相場観にはあまり意味がありません。
見積もりを取るときに金額を左右する項目は次のとおりです。
- ✓補償地域。シンガポール国内のみか、東南アジアか、日本を含む全世界か
- ✓入院のみか、外来・歯科・健康診断まで含めるか
- ✓既往症・慢性疾患を補償に含められるか
- ✓出産の予定。国際医療保険では出産給付に加入から10か月または24か月の待機期間が設けられていることがある
- ✓雇用主提供の保険がある場合、その補償範囲と家族の扱い
入院時のデポジット
公立病院に入院する際は、見積請求額の全額に相当するデポジットを求められます。雇用主または保険会社のLetter of Guarantee(支払保証書)があれば減免されます。保険に入っていても、保証書の手配が間に合わないと一時的に自己負担で立て替えることになるため、加入時に保証書の発行手順を確認しておくと安心です。
月々の生活費のなかでの医療・保険の位置づけは生活費の総額で扱っています。この費目は年齢で最も大きく動くため、見積もりを取って置き換えてほしい項目です。